タイトルから民俗学的な想像がされてしまいますが、実は本書は新たな「歴史」の考察方法を提唱している本です。
その歴史とは、通常の歴史からは漏れ落ちてしまった、あるいは経済や社会制度上の事件にばかり目を奪われている内に見失ってしまった歴史です。
精神史といえば近いかもしれません。
著者は奇妙な現象に目を留めます。それは、1965年を境に、人がキツネや狸、狢やイタチたちに騙されたという話が消えてしまったことにです。
一体1965年に何があったのか。
そして、私たち日本人がキツネたちに騙されなくなったというのは、どのような変化が起きていたのか。
それを考察している実に興味深い本です。
そして、私たちがキツネたちに騙されなくなった原因を辿るプロセスにおいて、「歴史」とは何かという哲学的な考察にまで進みます。
非常に読みやすい文章で、郷愁をそそる歴史哲学書です。
第1章では、キツネに騙される話が紹介されます。
第2章では、1965年に何が起きたのかを探ります。
第3章では、キツネに騙されるためには、騙される人の側にもある能力が必要なのだと述べ、その能力が失われる理由を探ります。
第4章では、歴史哲学が対象とする歴史とはどのようなものなのかを確認します。
第5章では、さらに歴史哲学について掘り下げていきます。
第6章では、キツネたちに騙されなくなった人間が失った豊かな自然観や歴史観について、結論を出します。