2013年11月21日

『日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか』内山節



タイトルから民俗学的な想像がされてしまいますが、実は本書は新たな「歴史」の考察方法を提唱している本です。

その歴史とは、通常の歴史からは漏れ落ちてしまった、あるいは経済や社会制度上の事件にばかり目を奪われている内に見失ってしまった歴史です。

精神史といえば近いかもしれません。

著者は奇妙な現象に目を留めます。それは、1965年を境に、人がキツネや狸、狢やイタチたちに騙されたという話が消えてしまったことにです。

一体1965年に何があったのか。

そして、私たち日本人がキツネたちに騙されなくなったというのは、どのような変化が起きていたのか。

それを考察している実に興味深い本です。

そして、私たちがキツネたちに騙されなくなった原因を辿るプロセスにおいて、「歴史」とは何かという哲学的な考察にまで進みます。

非常に読みやすい文章で、郷愁をそそる歴史哲学書です。

第1章では、キツネに騙される話が紹介されます。

第2章では、1965年に何が起きたのかを探ります。

第3章では、キツネに騙されるためには、騙される人の側にもある能力が必要なのだと述べ、その能力が失われる理由を探ります。

第4章では、歴史哲学が対象とする歴史とはどのようなものなのかを確認します。

第5章では、さらに歴史哲学について掘り下げていきます。

第6章では、キツネたちに騙されなくなった人間が失った豊かな自然観や歴史観について、結論を出します。


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『北朝鮮はどんなふうに崩壊するのか』惠谷 治



本書のカバーに巻かれた帯に、

「北朝鮮国民も必読の1冊」

と書かれているのはブラック・ユーモアでしょうか。

北朝鮮関係の本は多く出ていますが、本書の特徴は、タイトル通り、北朝鮮が崩壊することが前提で書かれていることです。

ただし、本書で言うところの北朝鮮の崩壊とは、金正恩政権の崩壊を示します。

そしてその崩壊のシナリオは複数用意されております。

・金正恩暗殺による政権交代
・軍事クーデターによる政権転覆
・民衆蜂起を契機とした政権崩壊
・韓国の左翼政権の再登場で「連邦制」による朝鮮統一
・中国人民解放軍の進出
・米韓軍による北進・占領

これらの可能性を検証し、著者が可能性が高いとみたシナリオについてはより具体的なシミュレーションを行ってみるという内容です。

著者は正直に、北朝鮮がこれからどのようなシナリオを辿るかの予想は困難だと述べます。それは、北朝鮮の内部状況だけでなく、それを取り巻く中国、韓国、米国などの変数もあるからです。

それでも著者が確信しているのは、金正恩政権の崩壊です。

そのことを前提に非常に多くの情報(北朝鮮有力者たちの権力構造や兵器の威力など)を集めながら、北朝鮮が崩壊していく様を予想していくところは、所謂戦争シミュレーション小説を読んでいるかのような臨場感があります。

前書きでは、どうやら金正恩が権力に目覚めたらしいことを示すシグナルを読み解くことから始まります。

第1章では、民衆蜂起の可能性を検証します。

第2章では、軍事クーデターの可能性を検証します。

第3章では、金正恩が核兵器開発に注ぐ執念を垣間見ます。

第4章では、米韓との軍事衝突の可能性を検証します。

第5章では、朝鮮半島で有事が発生した際、日本はどうするべきなのかについて考察します。

後書きでは、仮に南北が統一された際、何が起きうるのかについて暗示して終わります。

何かと目立つ隣国で有りながら、ベールに包まれた北朝鮮の現在を知るための、緊迫感のあるガイド本と言えます。


posted by しげぞう at 22:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年11月03日

『(株)貧困大国アメリカ』堤 未果



本書は非常に優れたルポです。世界を動かしているのはフリーメイソンでもイルミナティでもありません。現実はファンタジーでもメルヘンでもありません。

それでは何者が世界を動かしているのか。

大資本家達で有り、グローバル企業です。

副島隆彦が言うように、世界を動かしてきたのはいつの時代も、「金のある奴だ」ということになります。

本書では、米国の格差社会をもたらしたものはな誰か、実在する犯人を突き止めていきます。

ここに、現在の日本をも蝕む新自由主義者たちが好む規制緩和、グローバリズム、自由競争、小さな政府、道州制、株主資本主義、公共事業の民営化が、今後の日本社会に何をもたらすのかということが、米国の今を見れば明らかであることに戦慄します。

特にモンサントの世界戦略が明らかになったとき、戦慄しない人はいないでしょう。そしてモンサントが推進しているのがTPPであることが分かれば、安倍内閣が参加してしまったTPPが単なる自由貿易協定に終わらないことが見えてきます。

それは、その国特有の文化や制度をも、グローバル資本主義、株主資本主義、拝金資本主義が破壊し、国民の主権を奪い取り奴隷化していく仕組みであることに気付くはずです。

第1章では、米国の食品産業が、現代の農奴制を生み出している仕組みを明らかにします。

第2章では、SFに登場するような効率最優先の食品産業がもたらす、オーガニック食品の狂気じみた舞台裏が暴かれます。

第3章では、遺伝子組み換え穀物を低コストで大量に生産するためにショック・ドクトリンが利用されているおぞましい現実が突きつけられます。

第4章では、公共サービスを民営化し、自由競争に晒すと、格差が広がる仕組みが暴かれます。

第5章では、資本家が自分たちの限りない欲望のために、政治もマスコミも金で買ってしまうと言う、米国の現実が99%の人々に絶望を与えます。

米国を見る事で、日本が何処に向かっているのかが明らかになります。

日本の将来を予感させる、恐ろしくも優れた渾身のルポです。


posted by しげぞう at 22:49| Comment(0) | TrackBack(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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