国家を維持するために欠かせないエネルギー政策を誤ると、その存亡が問われる事態になる、という重量級のテーマを、気軽に読めるようにかみ砕いて分かり易く述べたのが本書です。
本書では、石炭が近代国家を築いたのだ、というところから始まり、やがて石油と機械で闘うようになった戦争を経て、原子力の時代が到来した現在までを俯瞰しつつ、その時々の日本の政策が時に誤り、時に世界情勢に助けられて現在に至る経緯を解説しています。
感情論に流されること無く、冷静にエネルギー政策が国家の存亡に関わる重要事であることを、これほど分かり易く、まるで茶菓子でも食べながら論じているような気負いの無さで解説しているところは、流石年季の入った著者であることを感じさせました。
後半は主に原子力発電が如何に日本の国益に必要であるかということを、エネルギー安保の面と、経済政策面、技術力維持の面から主張しています。
この辺りになると、感情的な脱原発論者や反原発論者達はアレルギー反応を起こすかもしれませんが、そういう人達にこそ是非読んで欲しいところです。もし彼らが真剣に脱原発を目指すのであれば、まずは渡辺氏を説得できる程の論理的な根拠を用意しなければならないでしょう。
本書は新書としては168ページと薄く、文章もいたって平易ですので、若い人や脱原発・反原発の人達に是非読んで欲しい本です。
しかしページ数が少なくとも、激動の時代を生きてきた著者だからこその、重みのある論説となっています。