久慈力氏の古代史ものの中では比較的読みやすいと思われます。同氏の古代史ものが読みにくく難解なのは、本文中に他の著書で解説したことについては説明を端折って結論だけ書いているためです。
例えば、
「藤原氏は、鎌足と不比等の二代の間に、スキタイ・サカ族系、秦氏系、新羅系、箕の子系、唐系などを統合し、藤原四家として確立した。」
などと突然結論が記されているのです。しかしこの記述を裏付ける説明は一切省かれておりますから、読んでいる側としては、「とりあえずそういうことにしておこう」と、なにやら納得出来ないまま読み進めるしかありません。
恐らくこのような場合、久慈氏としては既に他書で解説済みな事項は重複を避けるための記述方法なのでしょうけれど、初めて同氏の著書を読む身にとっては、これだけで「???」となってしまい、読み進めることが難しくなってしまいます。
ただ、今回の著書が比較的読みやすかったのは、同書が参考にしている情報が自著ではなく、他者の文献が多かったために、割と丁寧に背景を説明しながら描かれていたためでは無いかと思われます。
本書では、タイトルの通り、聖徳太子を実在した人物では無く、有る人物を土台にしながらも、シルクロード上の各地域に存在した複数の人物像を合成して作り上げた人物であることを解明しようとしています。
その際に、多くの歴史作家や学者の文献における聖徳太子像を紹介しつつ実像に迫ろうとする解説手法は、非常に好奇心をそそられる楽しいプロセスでした。
そして本書では、聖徳太子が様々な歴史上の人物を合成した虚像だとして、それでは誰がいったい何のためにその様な虚像を作り上げたのか、という謎にまで迫ります。
最後の章では、13人の著名な学者や作家の聖徳太子に関する説を紹介しつつ、著者の考えを述べている付録のような章となっていますが、これも大変に興味深く、久慈氏が参考にした文献を自分でも読んでみたいと思わせる内容になっていました。
個人的には、これまで読んだ聖徳太子に関する謎解き本の中では、関裕二氏のデビュー作である『聖徳太子は蘇我入鹿である』に匹敵するおもしろさでした。
今後も聖徳太子の謎解きに関する本を見つけたら、読んでみたいと思わせてくれる本でした。