野口悠紀雄氏の著書は、必ずAmazonのレビューで酷評を多く受けています。
それでも私が同氏の著書を読むのは、それらの酷評があまり的を得ていないからです。
酷評の共通点は、野口氏の分析があまりに皮相的で、基本的な経済システムを理解していない、というものですが、全くそのような事はありません。
むしろ、やや難解かな、と思える程に、複雑な経済理論を駆使しています(それが反面、机上の空論的に感じてはしまうのですが)。
では、私は野口氏の主張を全面的に支持しているかというと、むしろ反対の主張を持っている者です。
しかし、野口氏しの著書には、多くの示唆に富んだ鋭い指摘があるため、必ず自分の盲点を突かれることになります。それが、同氏の著書を読む期待感です。
また、最近の野口氏は、より一層歯に衣着せぬ物言いをするようになってきており、政府や官僚批判色が強くなってきています。この辺りもおもしろさを増してきている部分です。
さて、やや抽象的な物言いが続きました。
まず今回のタイトルは、恐らく出版社が付けたのでは無いかと感じます。というのも、内容にそぐわないタイトルだからです。売れそうなタイトルを付けた、というところでしょう。なぜなら、同著の中では、製造業が日本を滅ぼすといった主張はされていないからです。
そうではなく、日本の製造業が、このまま従来のビジネスモデルを引きずっていては、駄目になってしまう、つまり、駄目になるのは日本では無く製造業だと言っているわけです。
今回、著者の主張で全く同感なのは、円安頼みと輸出頼みをさっさと捨てるべきだと言う部分です。
アップル社を一つのモデルケースとして紹介しているところは分かり易いところです。同社は、製造を海外で行っているため、自国通貨が高くなるほど利益を上げることができるからです。
また、私は以前からTPPへの参加に反対している者ですが、野口氏の反対の理由は、私にとっては新しい視点でした。
第1章では、東日本大震災が、日本の輸出産業の転機だとしています。私は転機はとっくに過ぎたと思っておりますが、特に貿易赤字の数字を示すことで東日本大震災を転機と指摘します。面白いのは、脱工業化で電力不足が解消し、原発を無くせるという主張です。なるほど、そういう考えも有ったのかと少々愉快でした。そして円安こそが貿易赤字を悪化させるため、政府の介入が暴挙だと指摘します。
第2章では、日本の貿易構造が変化していることを、特に数字を示すことで証明します。象徴的な産業として自動車産業を取り上げ、農業化しているとの指摘は新鮮でした。また、従来のエネルギー多消費型産業を脱する必要性を説きます。さらに、円高が障害にならないビジネスモデルへの脱皮の仕組みを説明しています。
第3章では、円高が国難であるとする通説を覆します。現在の円高は、安すぎた円が正常値に戻ろうとしている過程にあることや、円高によるメリットや、円高を生かせない産業構造の問題点を指摘します。
第4章では、電力問題が日本の産業に及ぼす影響と、電力問題を供給側からばかり論ずるマスコミや政府、世論に対し、需要側から論じてみせるという新たな視点を提供します。その上で、需要側の変化、つまりは産業構造の変化から、電力不足問題を解決できると説明します。
第5章では、第4章の延長として、需要側の改革によって脱原発が可能であるという新しい考え方を提供しています。
第6章では、従来の製造業のビジネスモデルでグローバル競争に打って出ることの愚かさを指摘し、金持ちの国ならではのビジネスモデルを追求すべきことを提言します。特に製造業の垂直統合モデルから、水平分業モデルへの脱皮の必要性を主張します。この章は、特に私は感銘を受けました。
第7章では、自ら提案する製造業の新たなビジネスモデルの欠点として、雇用が減少することを認めつつも、従来型のビジネスモデルでもどのみち雇用が減少する事を証明し、それではどうすれば雇用を拡大できるのか、ということを提言します。
第8章では、TPPを「第二の開国」どころか、ブロック経済でしかないことを暴き、儲け、という視点から批判します。
第9章では、欧州ソブリン危機(債務危機)が日本にどのような影響を与えるか検証します。また、アイルランドが躍進へと復活した産業構造の改革に、日本の製造業の生き残るヒントがあることを示します。
製造業に携わる人達には、必読の書だと評価します。
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