私は常々違和感を覚えてきたことがあります。広島平和都市記念碑
(原爆死没者慰霊碑)に刻まれた「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」という文言です。
この言葉には主語がありません。
確かにさっさと降伏すべき状況になっても降伏しなかった軍部の行動は誤りではあります。また、資源力、経済力においても勝てる見込みがない国に宣戦布告(しかもタイミングがずれた)したことも誤りでしょう。
また、日本が有利な和平交渉を行えるタイミングを逃したことも誤りでしょう。
しかし最も大きな過ちを犯したのは米国では無かったのでしょうか? 彼の国は日本に原爆を落とす必要があったのでしょうか? 謝罪すべきは誰なのでしょうか?
そんな疑問を抱き続けておりましたから、書店で本書を見つけた私は迷わず購入しました。
見た目はチープなデザインの文庫本ですが、大変読み応えのある本でした。
Amazonのレビューでは、本書中の小さな誤りが幾つか指摘されていますが、いずれも瑣末な事でしょう(B-29に50mm機関砲が載せられたや、ドゥーリトル隊の使用機は4発のB-24ではなく双発中型のB-25など)。
問題は、なぜ、ナチスが存在したドイツではなく、日本に原爆が投下されたのか、あるいはなぜ、もはや戦争継続能力を失っていた日本がまもなく降伏すると分かっていながら、完成したばかりの原爆を慌てて日本に投下したのか、ということです。
また、軍部の主立った人達が原爆投下を軍事的に不要であると反対したにもかかわらず、投下されたのはどのような人達の意向だったのでしょうか。
著者の日高氏は、これらの問題を、丹念な情報収集とインタビューで解明していきます。
その結果、私たちが目を背けてきた冷酷な事実が浮かび上がってきます。その結論は、実が誰もがうすうす感じていながらも、敢えて考えないようにしてきたことかもしれません。
さらに後半、著者の目は現在の国際情勢と日本の防衛に目が向けられます。
原爆が投下されたことで、戦争が起きないことを「祈っている」だけで良いのか、と著者は懸念します。そういえば故小室直樹先生も、日本の平和主義者は思考停止した念仏主義者だというようなことをおっしゃっていました。
現在の日本は、平和ボケした人々の祈りとは逆に、またしても原爆を投下されてしまう可能性が高まっているからです。
これもまた、人々が目を背けている事実です。
再び日本に原爆が落とされないためにどうすれば良いのか、著者が示した方向性は、非常に同感できる内容でした。(ネタバレになるので書きませんが)
平和を願っている人にこそ、この手の本を勧めたいと思います。
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