日本人の平均寿命がますます延びる一方で、年金支給開始年齢が上げられています。それに伴い、定年退職の年齢も上げられようとしています。
つまり、一度就職して、もしもその会社で定年退職まで働いた場合、例えば大卒の23歳から65歳、あるいは70歳まで働くと、42年間もしくは47年間同じ仕事を続けることになります。
年金支給開始年齢が70歳になれば、成人してからの人生の殆どを一つの会社や仕事に従事して過ごすことになるわけです。
著者は、それはたまらない、と言います。せっかくの人生を、そんなよぼよぼになるまで、お金の為だけに就職した先のつまらない仕事だけで終わらせたくはないのだと。
たしかに言われてみれば、ぞっとする話しで、会社員の多くは生活のために実につまらない人生を送っているのかもしれません。
そこで著者は提唱します。40歳くらいで転職しましょうと。前半はやりたいことも分からないし、働くと言うことも分からないから、とりあえずは就職すれば良いと。
しかし40歳くらいになったら、今度はやりたいことがみつかっているであろうから、好きな事をして生きるべきだと。
確かに共感できる考え方ですし、非常に魅力的な提案ではあります。
しかし、現実は著者が言うほど生やさしくはありません。まして政府の大本営発表とは逆に、景気はますます悪くなっています。
著者自身は、自分は実際に、前半は会社勤めして、後半は好きな事をして生きていることを実証できていると主張していますが、著者であるちきりんさん自身、高学歴で外資系企業で経験を積み、世界を股に掛けて働いていたキャリアウーマンです。
しかも、若くして会社を辞めた頃には持ち家のローンも支払い終えていたと書かれていますから、相当給料も高かったのでしょう。
つまり、著者の実績は、特別に優秀な人の例でしか有りません。
そして著者が、途中で仕事を変えて成功したとして本書で紹介している人達もまた、高学歴で才能や運に恵まれた「普通では無い」人達ばかりです。
彼らの、好きな事を仕事にして、好きなときに働き好きなときに遊ぶ生き方は憧れますが、普通の人でも誰でもできると主張する著者には根拠が一切示されていません。
本書では、実に見事に、長い人生で一つの職業だけにしがみついていてはつまらないし、リスクも高いことについて様々なデータを参照しつつ論理的に語っています。
この部分は非常に共感できます。
ただ、だから普通の人も会社を辞めて起業したり、もっと好きな仕事に転職して、しかも働く期間と遊ぶ期間を自由に使い分けられる生き方をすべきと提唱していますが、はっきり言って一般人には困難であり、リスクが高すぎます。
途中で起業したり好きな仕事を目指して成功するためには、著者を初めとして、高学歴、貴重なキャリア、特別な才能、若い内に一財産築いていることなどが条件となります。
著者が分析している社会の変貌の予想についてはほぼ共感できますし、40前後で好きな仕事を選ぶ直すべきだという考えには憧れます。
しかし、現実に普通の人が会社を飛び出したら、路頭に迷う可能性が高いことは、肝に銘じておいた方が良いでしょう。
著者が主張するようには簡単では無いと、私は思います。